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最高裁判所第三小法廷 昭和52年(あ)1271号 判決 1978年7月07日

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

弁護人樋高学の上告趣意第二、一は、憲法三一条違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張にすぎず、同二は、憲法三八条三項違反をいう点もあるが、その実質はすべて事実誤認、単なる法令違反の主張であり、同三は、憲法三一条違反をいう点もあるが、その実質はすべて事実誤認、単なる法令違反の主張であって、いずれも適法な上告理由にあたらない。

同四は、憲法三二条、三七条、三一条違反をいう点を含め、すべて実質は刑訴法四〇二条の解釈適用の誤りをいう単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。そして、検察官が控訴をした事件は、たとえその申立理由が被告人に利益なものである場合であっても、同条にいう「被告人のため控訴をした事件」にあたらないと解すべきであるから、原判決には所論のような法令違反は認められない。

同五は、違憲をいうかにみえる点もあるが、すべて実質は量刑不当の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

しかしながら、同三の所論にかんがみ、職権をもって調査すると、原判決は、以下に述べる理由により、破棄を免れない。

本件公訴事実の要旨は、被告人は、有限会社日光商事の名称で金融業を営むものであるが、昭和四八年二月一五日から同五一年二月二六日までの間四六五回にわたり、右日光商事の事務所において、三三名の顧客に対し一〇〇日の貸付期間で金銭を貸付けるにあたり、一日あたり〇・三パーセントを超える一日あたり約〇・三三パーセントの割合による利息契約をしたうえ即時これを受領した、というものであって、右の事実は、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律(以下、「法」という。)五条一項違反の罪に該当するとして起訴されたものである。

第一審判決は、右公訴事実どおりの事実を認定し、これを刑法四五条前段の併合罪として、各罪につき所定刑中罰金刑を選択したうえ、同法四八条二項により被告人を罰金一五〇万円に処した。これに対し、検察官から、法五条一項違反の罪の公訴時効は三年であるところ、第一審判決のいうように本件各事実の罪数関係を併合罪とみるならば、本件公訴事実中昭和五一年四月二七日付起訴状添付別表一覧表の1ないし3の各訴因については起訴前に、同年五月二二日付訴因変更請求書添付別表一覧表1ないし23の各訴因については訴因変更の請求前に、それぞれ公訴時効が完成したことが明らかであるから、右各訴因については刑訴法三三七条四号に該当する場合として免訴の判決をすべきであったのに、その言渡をしないで有罪の判決をした第一審判決には法令の適用を誤った違法があるとの理由で、控訴の申立がされた。原判決は、これに対し、第一審判決判示の各所為は犯行の目的及び態様からみていわゆる営業行為であり、包括して法五条一項に該当する一個の犯罪と評価すべきものであるから、これを併合罪として処断した原判決には、公訴時効の点につき論ずるまでもなく、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるとし、更に、職権により、第一審判決添付別紙一覧表(一)の1及び2、同じく別紙一覧表(二)の1ないし15の各事実については、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるとし、結局、第一審判決を破棄したうえ、被告人を懲役三月及び罰金二〇万円に処し、右一七個の事実については、理由中で無罪の判断を示した。

ところで、法五条一項は、金銭の貸付を行う者が所定の割合を超える利息の契約をし又はこれを超える利息を受領する行為を処罰する規定であるところ、その立法趣旨はいわゆる高金利を取り締まって健全な金融秩序の保持に資することにあり、業として行うことが要件とされていないなど右罰則がその性質上同種行為の無制約的な反覆累行を予定しているとは考えられない。したがって、法五条一項違反の罪が反覆累行された場合には、特段の事情のない限り、個々の契約又は受領ごとに一罪が成立し、併合罪として処断すべきである。原判決は本件各所為がいわゆる営業行為としてされたことを理由に包括して一罪と評価すべきものとしているのであるが、同項違反の罪におけるように営業行為として反覆累行されること自体が行為の悪質性を著しく増大させるものである場合には、営業行為としてされたことをもって包括的な評価をすべき事由とするのは相当でないと解される。記録を調べても、本件各所為を一罪と評価すべき特段の事情は認められない。

このように、本件各所為については個々の契約又は受領ごとに一罪が成立し、それらを併合罪として処断すべきであるとすると、右各所為は三年以下の懲役又は三〇万円以下の罰金にあたる罪であるから、その公訴時効は各犯罪行為の終わった日から三年の期間を経過することにより完成するものである。そして、記録によると、検察官の前示控訴趣意で主張されているとおり、検察官指摘の各所為については公訴時効が完成していると認められる。

そうすると、原判決が本件各所為を包括して一罪と認めたのは違法であり、その結果、本件公訴事実につき公訴時効が完成しているか否かを審査することなく、公訴時効が完成している訴因についても実体上の審理を遂げ、その一部を有罪その余を無罪としたことも違法であって、右の違法は原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

よって、刑訴法四一一条一号、四一三条本文に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 服部高顕 裁判官 環 昌一)

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